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スズメバチの成虫と幼虫の間には「栄養交換」という食物の巧妙なギブアンド テイクの関係があるのです。
スズメバチの成虫は,幼虫に肉団子を与えるとき,幼虫が飲み込めるような細かいサイズにくかみ砕いて口移しで与えられます。唾液腺が発達した老熟幼虫になると,口もとによだれのような透明な液体を分泌します。その分泌液を成虫がなめて栄養分を補給します。
実は,この分泌液は糖やたんぱく質を含み人間の母乳に匹敵する栄養価をもっているのです。これが,成虫の重要な栄養源となるのです。
つまり,スズメバチの成虫が狩りをするのは幼虫の餌となる肉団子を確保するためで,その餌をもらった見返りにスズメバチの成虫は、老熟幼虫が分泌する液体の栄養分をもらっているのです。
樹液をなめるオオスズメバチたち
一方、スズメバチは,主にエネルギー源となる炭水化物を確保するため,クヌギ,コナラなどの樹液,イチジク,ブドウ,カキなどの熟した果実,アブラムシの甘露などを求めて訪れます。また,ヤブカラシ,サザンカなどの花蜜,などを求めても訪花します。
これらの炭水化物源は,成虫から幼虫に、成虫から成虫にと口移しで与えられ消化されます。スズメバチは,ミツバチのように蜜として巣にためることはありません。
コガタスズメバチの成虫間の栄養交換
キイロスズメバチは,小回りが利いて敏捷性が高く,中小型のハエ,アブ,セミ,トンボ,バッタなど多種類の昆虫やクモを狩ります。自然界のミミズや魚の死骸や生肉はもちろんのこと,さらには調理した魚や生の魚などや飲み残しのジュースなども餌とするなど人間の生活環境に順応してさえいます。
このような餌になる対象の広がりは,キイロスズメバチが都市に定着しやすい要因の一つになっています。
キイロスズメバチは,ミツバチの巣も襲撃しますが,ミツバチが巣に出入りするところをねらって1匹づつ捕まえては肉団子にして自分の巣に持ち帰る程度です。集団で巣を襲ってミツバチを全滅させ,蜂の子や蜜までもほとんど奪い取ってゆくオオスズメバチとは比べものになりません。
コガタスズメバチの食性は広く,特にハエ目(ハエ,アブ)とハチ目(ハチ)で7割近くを占めるようですが,マメコガネなどの小型甲虫やアオムシなど多くの昆虫やクモなども狩ります(中村)。
コガタスズメバチは,さまざまな昆虫を餌の対象としている特徴とこじんまりとした巣の規模で餌を大量に必要としない特徴があるため,緑が少ない都市部でも餌が確保され定着しています。
コガタスズメバチの巣は、最大でもバレーボールくらいの大きさにしかなりません。活動する働き蜂の個体数はピーク時でも最大で 100匹ちょっとぐらいです。
オオスズメバチは,身体が大きい分だけ敏捷な昆虫を捕獲するのが苦手のようで動きの鈍いセミ,コガネムシ,カマキリなどの大型昆虫やクモなどを狩ります。特に7~8月はドウガネブイブイの成虫が主要な餌となっており,固い表皮ごと強大な大顎で噛み砕いて肉団子を作り,巣に持ち帰ります。
秋になるとオオスズメバチの働き蜂の数が急速に増え,次世代の女王蜂や雄蜂も生まれてきます。さらに,オオスズメバチの幼虫は他の種類のスズメバチの幼虫とは比べものにならないほど巨大であるため,大量の餌が必要となります。
オオスズメバチの老熟幼虫たち
ところが,夏の間は昆虫などの餌が豊富ですが,秋になると餌となる昆虫が少なくなります。その深刻な餌不足を解消するため,オオスズメバチは,他の種類のスズメバチやミツバチの幼虫や蛹を狙って巣を襲うようになります。
オオスズメバチは,他の種類のスズメバチやミツバチが最も恐れている天敵として君臨しているのです。
オオスズメバチは,数匹~数十匹の集団で他種のスズメバチや二ホンミツバチ,飼育されているセイヨウミツバチの巣を攻撃し,数時間ないし数日を要して全滅させてしまいます。それから巣を占領し内部の幼虫や蛹をすべて餌として自分の巣へ運び幼虫に与えます。
そのため,他の種類のスズメバチは,秋になるとオオスズメバチから巣を守るため警戒し,神経質になっています。スズメバチの世界で,このような状況にあることがスズメバチによる刺傷被害が秋に集中する背景の一つにもなっています。
モンスズメバチとヒメスズメバチは稀に問題となるスズメバチです。これらのスズメバチは好き嫌いがはっきりしている「グルメ派」です。具体的にどのような餌を求め、どのような行動をしているのでしょうか?
モンスズメバチはセミを好む「グルメ派」です。セミがたくさんいる地域・場所には,モンスズメバチの生息が集中しているようです。
セミの少ない時期はトンボやキリギリスも狩るなど「グルメ派」ながらも,少しは餌とする昆虫に柔軟性があるようです。
ヒメスズメバチは,アシナガバチにこだわって他の昆虫は狩らないというこだわりの「グルメ派」です(中村,2000)。ヒメスズメバチは,アシナガバチの巣を単独で襲って巣にいる幼虫や蛹を引き抜いてかみ砕いて,その体液を吸いつくします。
その体液は,食道の一部が袋状になっている素嚢(そのう)という器官に一時的に貯められます。ヒメスズメバチは,素嚢(そのう)に貯めていた体液を吐き戻して口移しで幼虫に与えます。ヒメスズメバチは,幼虫の餌としてアシナガバチを肉団子にすることはありません。
『ヒメスズメバチがコアシナガバチの巣を襲う』
ヒメスズメバチに襲撃されている巣のアシナガバチの成虫たちは,抵抗することもなくやられるがままになっています。ヒメスズメバチが襲った巣は,何回でも襲撃します。
そのため,アシナガバチの成虫は殺さず,一回だけの襲撃で巣にいる幼虫や蛹を全滅させることはないようです。
(注)ヒメスズメバチはアシナガバチの巣だけでなく、コガタスズメバチの巣も襲うことがあるそうです(山内)。
参考文献
『原色図鑑 野外の害虫と不快な虫』(梅谷献二編、全国農村教育協会)中の「ハチの仲間」(松浦誠著,全国農村教育協会)
『都市のスズメバチ』(山内博美著,中日出版社)
『スズメバチはなぜ刺すか』(松浦誠著,北海道大学図書刊行会)
『スズメバチ-都会進出と生き残り戦略』(中村雅雄著,八坂書房)
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